序章

トナシバ!


「だから、こんな流れ者、信用ならないって言ったんだ!」
「何を言うのです、姫様のお言葉を侮辱するとは、姫様を侮辱するのと同じです!」
「殿下はお人が優しかったから! 誰の言うことでもぽろっと信じて――」
「見損ないました、カイン様、姫様の事をそんな風に言うなんて!」
「ああ、もう、あんた達、うるさいってば! 術に集中できないでしょ!」

 美冬は、眼前の光景に唖然とするばかりだった。
 一体何が起こったのか全く把握できない。
 それまで彼女を取り囲んでいた高校の校舎の風景など微塵もない。
 なんなのだ、この一面の石造りの部屋は。
 その部屋の地面に気づいたら放り投げ出されていたので、美冬の足には石の床の冷たさがじんわりと伝わってくる。
 部屋は薄暗い。美冬の真横に1本のろうそくが立てられており、美冬のすぐ目の前に立っている、ローブを羽織った女がもう一本ろうそくを持っている以外、部屋に明かりという明かりはなかった。
 天井は、高い。円錐状に、中心に向かって高くなっていた。
 そして、問題は、目の前で口論している――否、して「いた」3人である。
「あ」
「あ」
「あ!」
 3人の声が、重なり、視線も、同じ一点に収束された――美冬の上に。


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