ついのべ まとめ







ついのべまとめ       



お湯が注がれた。4分カップ麺はドキドキしていた。カップ麺は3分だという思い込みから、友人らはみな3分で食べられてしまった。4分カップ麺は、自分は4分で食べられたいと思う。だが3分経った時、蓋は開かれた。だめ、お願い、あと1分…!4分カップ麺の涙が蓋の裏にはりつく。
世界をひとつに!そのスローガンで統一された世界では多様性が悪とされ、文化が、芸術が、言語が消滅した。唯一の価値観によって平和を保つ絶対の世界で、死期を悟った作曲家は失われた母語の歌を紡ぐ。エスペラントしか知らぬ若い警官らが青ざめて彼の口を封じに来た。世界を一つに。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は、この中から2つ以上を選んでついのべって下さい。「作曲家」「気付く」「明るい」「横断歩道」「エスペラント」
もうダメになってしまった、と新鋭作曲家は呟いた。どうして?目の前で女が首を傾げる。世界中があなたの音に熱狂してるのに。もうダメなんだ。挑発的で鋭いサウンドが持ち味の俺の曲より、のほほんとして朗らかな君の声の方が何百倍も魅力的だと気付いてしまったその日から。
ロボットはこの星に生命が生まれる前からずっといた。遠い昔、他の星からやって来て帰れなくなったのだ。失恋して泣いている私に、彼はそっと寄り添った。姿かたちは違うけど君たちも涙を流すんだね。僕を作った地球人もそうやって泣いていたよ。ロボットは寂しくても泣いたりしない。
さっきまで綺麗に空を映していた田んぼの表面が途端に乱れて、私の心もこれくらい誰にも見えなくなれば良いのにと思った。 #雨水濡という字を使わずに雨が降る情景を描写してみましょうか
もったいないおばけは一人暮らしを始めた俺に節約レシピを教えてくれたり水道を直してくれたり、口うるさいけど良い人だ。彼女が出来てから見なくなったけど、来月の式には来てくれるかな。もったいないおばけが遺影でしか知らない母に似ているのを俺は知ってる。
ろくろ首星では首が細く長いほど美人とされるので、女の子たちは必死に首を細長くするための努力を重ねています。試行錯誤の末、ろくろくびじんたちは頭が軽くなりすぎて星に留まることができなくなりました。ふわふわぷかぷか。もうすぐ地球に到着するでしょう。
ホタルイカは納得できなかった。夏になると異性を惹きつけるために光るという、色ボケ虫と同じ名前を付けられたのが腹立たしかった。なにが鳴く虫よりも…じゃい!人間との関係に疲れたホタルイカはきゅうきゅう鳴きながら浜辺に身投げし、拾われ、茹でられ、酢味噌をつけて食われた。
なめくじおばけはこの星に生命が生まれる前からずっといた。遠い昔に別の星からやってきて帰れなくなったのだ。なめくじの呪いでこの星には塩がない。それなのに僕は時々、しょっぱいものが食べたいなあと思う。しょっぱいものの事を考えると、おばけがやってくる。
インド人のベビーシッターは大らかな女性で、部屋の隅で泣いてばかりだった私を可愛がってくれた。見送りの時に空港でくれたインドのおもちゃのバングルは大事な宝物だ。私は今でもインド訛りの懐かしい英語を聞くと人見知りだった頃に戻ってもじもじしてしまう。
アメフラシロボットは空をうにょうにょ飛んで雨を降らします。雨の具合はその日の気分です。ここ一週間雨が降らなかったのは、カミナリサマロボットと喧嘩して不機嫌だったからです。今朝になって仲直りをして今はご機嫌だから、さっきからあまぁい飴が降っているでしょう?
水たまりは恋をしている。可愛いあの子の小さな長靴が、ぱりぱりに凍った自分を踏み割ってきゃっきゃとはしゃぐ姿が忘れられない。お願いだからあと半年、冬が来る時まで、生き残りたい…!太陽が強く照って、青空が自分に映る度、水たまりは死にたくない、と涙する。
雄鶏は夢を見る。ティラノサウルスだった頃の夢だ。果てしない荒野を大きな二本足で駆け抜ける。地上の王者だったあの頃。ひとつ雄たけびをあげると地面が大きく振るえ、森がざわめき、動物達が慌ててそこに逃げ隠れる。そこで目が覚める。狭い小屋の中で朝の訪れを感じ、雄鶏は泣く。
体温計は壊れている。39度を示したまま動かない。もう大丈夫だと言っているのに、君はむりやり僕を寝かしつける。寝ていなくちゃだめよ、ずっと寝ていなくちゃだめよ、ずっと寝ていればずっと私たちふたりだけでしょ。縛られた身体が動かない。微笑む君はかつてないくらい幸せそうだ。
だしがあらわれた!ぎっしゃはなかまのじんりきしゃをよんだ!くるまがみっつになった!とどろいた!おどろいたうしとひとはちからいっぱいかけだしてやまへかえっていった!
宇宙線を防ぐ巨大な屋根の下にコロニーはある。それでも僅かに入り込む紫外線に耐えられない人々は地下に住む。僕らがどこからやってきて、どこへいくのか、知っているのは中央の塔に住む始祖と呼ばれるひとだけである。選ばれた戦士は何者かと戦いにコロニーを出る。
お父さんとは血が繋がってない。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、僕とは似てない。僕はもらわれっ子なんだと気付くまでそう長くはかからなかった。お父さんは無口だけど、時々優しい。血が繋がってないのにどうして? ・・・「ん、なんだポチ、黙って見つめて。ああ、これか。やるよ」
貴女がどれ程苦心して私を作ったか知っている。何度も私の顔の上を行き来するその指先を愛しいと思って、人口表情筋が動いてしまう。貴女の顔が苦しそうに歪む。違う、こうじゃない…。貴女がもうここにはいない人を再現しようとしているのを知っている。何故私に心を与えたのですか。
メリーさんは泣いている。羊が可愛くなかったからだ。羊さんも鳴いている。メリーが可愛くなかったからだ。メリーさんは鳴いている。羊がメェメェうるさいからだ。羊さんも泣いている。メリーがめそめそうるさいからだ。めそめそメェメェなき疲れたら、一緒にすやすや眠りについた。
国民の真意を問うた結果、国会はねじれた。無限の三次元空間で決して交わらぬ二本の直線…。両院は国民の真意であるそれぞれの道を進んだ。宇宙の果てで、衆議院は5次元の存在を証明したし、参議院は陽子の崩壊を目撃したが、もう地球は滅亡していたしどうでもよかった。
見習い魔女の私は動揺すると力が暴走してしまう。放課後の図書室、一緒に勉強してた彼のふとした笑顔に思わず教科書の文字を吸い込んでしまった。退屈な文からあ、な、た、が、す、き、が抜けて穴になる。どうしたの?という彼にな、ん、で、も、な、い、と返してこっそり穴を埋めた。
亀田君はいつも教室で一人だった。理科が得意で、一度夏休みの自由研究をすごいね、と言ったらとても嬉しそうな顔をしたのを覚えてる。20年後。突然現れた彼が、自作のロケットに乗せてくれるという。「君だけが、君だけが僕をわかってくれた、二人で遠くへ行こう、二人だけで…」
慈善サークル・RYUGUはイマドキの子供に人助けの大切さを伝えるため「浦島太郎」を疑似体験させる催しを行っている。清い心で亀を助けると竜宮城を楽しめるが打算で助けると玉手箱に呪われる。そこへ人の心を裁くとは何様だ、と自己啓発サークル・KOBUTORIがやってきた。
「このコロッケどこで買ったの?」という彼の言葉を「プロみたいに美味い」という意味だと2年間勘違いしていた。母は料理をしない人なので私は小判型のコロッケしか知らずそれを再現してしまったが、手作りコロッケとは通常俵型のものなのだ。私の悔しさは膨れ上がって台風となった。
台風は世界中で吹き荒れた。全人類が怯える中、日本人は狂ったようにコロッケを揚げ続ける。コロッケは恐怖した。台風より、非常時に何故かコロッケを揚げる日本人が怖かった。コロッケはたわしと一緒に家を飛び出し、風に攫われ雲に呑まれた。空はたわしに磨かれて急に晴れ渡った。
砂の女王は砂で出来ている。砂の王国を統べる女王。太陽の光で砂粒がきらきら輝く、その美しさにため息をつく僕を冷たく一瞥する。砂に支配された3日目、遂に雨が降って王国は滅び、女王は崩れ死んだ。雨上がりの空の下、窓枠に残った砂を見つけた僕の胸は高鳴る。
交換留学で冥王星に来て半年。ホストマザーはホームシックになった私を百年前に太陽系の人が作ったという図書館に連れて来た。故郷を思い出すかい?と言われ、火星と地球は別ものなんだよなあと思いつつもその気持ちが嬉しくて、私は人生初の紙の本を手に取った。
屋台でのひよこの販売が禁止され、ひよこ型のロボットが売られている。ひよこロボは、にわとりになりたいなあと思った。だってひよこのままじゃ大人って感じがしないんだもの。なりたいねー。なりたいねー。ぴよぴよはしゃいでいると、お母さんひよこに大人しくなさい、と一喝された。
満月の夜、病床の少年は月を見上げる。あまりにじっと見つめられたうさぎはたまらなくなって飛んできた。僕とお友達になろうよ。少年の病がすっかり良くなるとうさぎは月に帰って行ったが、地球が新月の夜、うさぎは満ち足りた地球を眺めては少年を思い出している。
ぺんぎんさんがぺんぺん草でぺんぺんぺんぺんたのしいな、ぺんねで作った大事なぺんでぺんぺんしたよと日記をつけた。
食堂のトレイに乗せられ使われ食洗器に入れられる毎日のサイクルに仲間達がうんざりする中、プラスティックの箸には密かな楽しみがあった。最近よく来るイケメンくんだ。毎日、彼に使われたくてワクワクするのだ。だが。「今日はラーメンだし割り箸だな」恋敵現る!
公園の墓場では、規制された箱ブランコや遊動円木のお化けが消毒不十分の砂でお城を作っている。公園の墓場は事件の現場になり易い、ビル陰の暗くて人目につかない場所にあるので、お化けたちは時々やって来た悪い人間を脅かし追い出している。
冥王星から太陽系の惑星に行くのにはビザが必要だが、冥王星が海王星より太陽寄りになる季節だけはビザ無しで太陽系に行ける決まりになっている。その時期は人気の観光スポットである海王星の合衆国立自然公園に旅行客が集中し、ロケット会社は書き入れ時なのだ。
家主が留守の間、ルンバは散歩に出る。近所の公園で、悪さに憧れた中学生が結局吸えずに捨てた煙草とか、渡せずに破られた女子高生の恋文とか、幼稚園児が初めての喧嘩で流した涙とか、ママ友らの愚痴とか、そういうものを全部吸い込んで、何食わぬ顔で自宅に戻る。
ペンギンが干上がった海を走っていると、俺達のユートピアを探さないか、とエミューが誘ってきた。クジャクから貰った餞別の羽根を飾り、ロケットに乗り込む。かつて飛べない鳥だと馬鹿にされたツバメより高く飛ぶと、ペンギンの胸はまだ見ぬ惑星への期待で躍った。
夢の世界では各々の役割が厳格に定められている。例えばこの社員食堂で調理係は調理だけ、盛り付け係は盛り付けだけ、洗い物係は洗い物だけ、事務係は精算だけで他の係が忙しくても手伝ってはいけない。私はA定食の列に並ぶ係で、幸せになるコツはカレーうどんに興味を持たぬことだ。
火星人は地球人と友達になりたいのに、人見知りで話しかけられず、一人で町をぷらぷらする。火星人は本屋で、火星には無い紙の本を見つけたので、真似して作ってこっそり並べてみた。火星人は今日も本棚の影から、誰か読んでくれるかなあと、ワクワク覗いている。
お向かいの家の二階は決まって夜七時に明かりがつく。窓際に綺麗なお姉さんが見える。僕が手を振ると静かに笑って、障子の戸を閉める。蝶々の影絵が映る。ひらひらと黒い蝶々の影が舞う。その事を話した時、両親は青ざめていた。大人になって知ったが、お向かいはずっと空き家だった。
幼い頃食べた母のキャロットケーキを再現したいのにどうしてもあの味にならない。甘さと塩気の絶妙なバランス。遂に私はタイムマシンで20年前へやってきた。手順は同じなのにな…あ!焼きたてのケーキを、友達と喧嘩した私は泣きながら齧り付いていた。あれは、涙の塩味だったのか。
太郎は眠れない。ママと喧嘩して腹が立つから眠れない。羊を数える。1匹、2匹、3匹…羊を数えろと言ったのはママだった。もう数えない。太郎は目を閉じる。荒野に取り残された3匹の羊は、とりあえず刺々しい草を食べてみる。朝、太郎が起きるとママへの怒りはすっかり消えている。
サウスポー専用ハサミは夢を見る。両利き用だった前世の夢だ。事務所の文具箱に入っている。色んな人に使われたあの頃。布ガムテープに立ち向かいベトベトになって廃棄された。そこで目が覚める。隣に陳列された右利き用が売られるのを見ながらサウスポー専用ハサミは今日も埃を被る。
神は一日一食派で、夕刻、民からの供物でスープを作る。米とか芋とかイベリコ豚とかよく熟れたメロンとか、盗んできた金貨とか子供が浜辺で拾った石とかさもしい男の嫉妬心とか、全てを鍋でぐつぐつ煮込む。ただ信心深い女の無心の祈りだけは口に合わないので、神はそれを箸で除ける。
気をつけてください。真夜中になっても眠らない悪い子の枕元には意地悪な小人たちがやってきます。おにぎりを握り、海苔を巻いて、美味しそうにぱくりと食べる姿を見せつけてくるのです!
雨を食べる者はあちこちにいる。アジサイの葉、その上のカタツムリ、大きくなりたい水たまり、小学生のコウモリ傘、雨漏りを受け止めるバケツ、そしてこの僕、傘がなくて雨の中を走る女子高生のYシャツであるこの僕を通して彼女の透けブラを見ようと企む変態!お巡りさんこっちです!

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は『雨の捕食者を使って30分で即興してね。特別ルールは衣類必須と指定:一人称小説』です。
雨が止まない。蝶は紫陽花の葉の裏に隠れる。だが遂に雨粒に見つかった。なんて美しい羽根!もっと見せておくれ!あなたを愛している!そう叫びながら、雨粒たちは次々に地面に叩きつけられて死んでいく。蝶々は震えた。あの言葉に誘われるまま雨粒に濡れれば自分も死んでしまう。
「なんだお前、どこから来た!」「私は未来のぬいぐるみです」「ぬいぐるみが喋ったり飛んだりしないだろ」「私はパンダです」「明らかにパンダじゃねーし!」「私は自動縫製ロボットに作られました」…以来、部屋に住み着いた翼を持つトリケラトプスと噛み合わない会話が続いている。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧さんの本日のお題は「ぬいぐるみ」、ほのぼのした作品を創作しましょう。補助要素は「未来」です。
橋守りの一族は千年の間、峡谷にかかる橋を守ってきた。15年前、谷の向こうから竜が攻めて来るまでは。戦の末、橋は壊れ竜も死んだ。15になる橋守りの娘は谷に向かう。橋も竜もないのに何をする、と哂う村人達から逃れ、娘は袖をまくる。父を知らぬ娘の腕には鱗が見え始めている。
最初に、神があった。神は宇宙を作りブラックホールを作り銀河を作った。あるとき偶然に、ひとつの惑星で命が生まれた。意思を持ってコミュニティを作っている。神は自分も家族がほしくなり、一人の老人を拾った。一人じゃ寂しそうなので他にも人や動物を拾った。あの世が生まれた。
彼は利き文《ききぶみ》検定1級保持者だ。手紙に限らずあらゆる紙にしたためられた文を言葉通り口にして真実を見抜く。「もぐもぐ、娘さんは元気にやってますよ」「むしゃむしゃ、この生徒、カンニングしましたな」「ペロッ、貴方の婚約者、浮気してます。こういう味が一番美味です」
夕日は悲しい。空が、雲が、海が、森が、町並みが、全てが、自分の色に染まっていくのが悲しい。眼前の光景が自分に呑まれていく。ただただ紅の世界。本当は誰にも悟られずにひっそりと死にたい。夕日は悲しい。
最先端の科学は長年の謎だったストーンサークルの正体を暴いた。それは50億年前に地球に来て帰れなくなった異星人の墓だった。遺体に繋がる成分は全て採取され研究所に奉じられた。だが空になったはずの墓場では亡霊の目撃情報が絶えない。科学が進歩するほど不思議は続く。
青空や、白い雲や、夕焼けや、星々が、やけに遠く見えたり手が届きそうなくらい近く見えたり、違って見えるのはどうしてなんだろう。もしかしたら、私は鳥になったのかしら。もしも鳥なら、うんと大きな鳥がいい。よく晴れた空を旋回し、きゅーるるると鳴きながら、君の事を考えたい。
診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は「自転車」というお題で、3個のストーリーの違うTwitter小説を書きます!


ある日突然、三輪車は目覚めた。小さな手にハンドルを握られ、小さな足にペダルを踏まれ、狭い道をゆっくり進んでいる。小さな主が、側にいる大きな男を、お父さん、と呼んだ。翌日、三輪車は主の父が大きな二輪車に乗り颯爽と走るのを見た。自分の父はあの二輪車だろうか、と思った。
世界一の自転車コレクターは、遂に地球上全ての自転車を集めてしまった。次のターゲットは、ETが乗っていた空飛ぶ自転車だ。「この広い宇宙のどこかに必ず、空飛ぶ自転車はあるはずだ!」彼はNASAもびっくりの高性能ロケットを独自に開発し、自転車を買いに宇宙へ飛び出した。
自転車が盗まれた。最近多いとは聞いていたから気をつけてたのに…大学入学以来ずっと愛用してた私の相棒…。そこへ現れた憧れの彼。「大丈夫か?後ろ乗れよ、送ってく」ええっ何、この夢みたいな展開!…あ、違うんだ相棒、お前が盗まれてラッキーなんて思ってない、早く帰って来い!
診断メーカーさんから貰ったお題による
みどりは「時計」というお題で、10個のストーリーの違うTwitter小説を書きます!


占い好きの友に連れられて、今話題の前世占いをしてもらった。私の前世はは砂時計の砂の一粒らしい。まあロマンチック!と友人は言うが、イマイチピンと来ない。ベッドの上で逆立ちしてみた。目の前の白い壁が白い壁に見えた。逆立ちを止め、デジタルの目覚ましをセットし、私は寝た。
漏刻の管理人は上級役人の中から選出される。水時計が満たされると鐘を鳴らし、国に時を知らせる大事な仕事だ。満たされる器に時折人魚が棲みつきお堅い役人達を次々誘惑するという噂が立ち、不埒な若者が役人を志望し始めたため、この国の時はめちゃくちゃである。
日付の表示される腕時計は16年前、くたびれたおっさんに買われ、娘への誕生日プレゼントにされた。安物だったのでうるう年には2月29日が表示できず3月1日になってしまう。16年後、腕時計はおっさんの形見になった。今年も日付を直す娘の細い指を、腕時計は愛しく思う。
僕はエウロパで生まれた最初の子だ。新たな星の希望として両親や周囲の大人らに祝福され、大事にされて育った。朝日が昇る、エウロパの6時。隣にいる彼女の時計が12時を指した。地球は今正午なのね、と愛しげに時計に触れる。懐かしむべき故郷のある彼女の横顔に僕は何も言えない。
押入れの中は暗闇で、音もなく、時間がわからない。きっと3時間は経った。夜になったんだ。少し不安だけど、ママがちゃんと反省するまで出て行くもんか。その時。「ぐぅう〜」「ご飯だよー」腹時計が鳴ると同時、ママが押入れを開けた。午後6時、喧嘩から30分しか経ってなかった。
恋をしてしまった。一目ぼれだった。あの娘のことを考えると胸が詰まって苦しくなる。名前も知らず、話したこともない。決まった時間に顔を出して小さく歌う、その姿を遠くから見つめるだけ。なぜ彼女はあの部屋から出てこないんだろう。
・ ・ ・
「ママー!あの鳩、また鳩時計見に来てるよ!」
時計はこの星に生命が生まれる前からずっとあった。遠い昔、別の星からやってきた人々が忘れていったのだ。知的生命体はずっと、時計に支配されている。時折疲れきった会社戦士が時計を破壊しようとするが、どれだけ殴ってもびくともしない。文字盤にはG-SH○CKと刻まれている。
公園の花時計が12時10分を告げるとき、短針の指す方角から彼女はやってくる。この辺で一番大きいビルに勤める彼女。6時の方角にあるベンチで弁当箱を広げる。12時45分、帰ろうとする彼女と目が会いそうになり、9時の場所のベコニアに興味のあるフリをして、僕は目を逸らす。
動悸がする。最初はゆっくりとした音が大きく聞こえるだけだったのに、そのうち、規則正しかった音が乱れ、激しく、加速し、時計の秒針のリズムを追い越してどっくどっく、大きな音とともに心臓は飛び出し、ああ出かけるのが憂鬱だ、と考える私の脳を置いて勝手に玄関から出て行った。
事故に遭ってから彼女は時計が読めなくなった。時間を認識できないのだ。僕は毎日彼女に付き添い、出勤時間、予定のある時間、就寝時間を知らせた。献身的な恋人だと言われた。ある日彼女は僕にもういい、といった。もうこんな負担から解放される時でしょ?時計なんか読めないくせに。
君のために四つ葉のクローバーを探していたらいつかの花畑に戻ってしまった。君が駆け寄ってくる。「どこに行ってたの、ずっと探してたのに。ねえ、これ、見て!」君が笑顔でクローバーを差し出すから僕はそれを奪いとった。「僕だって見つけたぞ!」大きい方をあげたのに君は泣いた。
「お前荷物多いな…少し持ってやろうか?」「な、べ、別に平気よ!足が8本あるんだから!」「え、あ、うん…」「ちょっと!1本余ってるじゃない!握りなさいよ!」
トカゲはしっぽを切る。そうやって進化して生き延びてきた。痛くないし、しっぽは生える。あらトンボさん、こんにちは。トンボのしっぽは変わってるのね。どれ、どれ。トンボのしっぽは千切れる。痛いよ痛いよ。トンボは暴れる。しっぽは暴れない。トカゲは動かないしっぽを食べる。
察しの悪い鮭は、どうも自分は川を遡らねばならないらしいと思ったが、既に仲間とはぐれ、どの川をどう上れば良いのか判らず、とりあえず大きく眩しい川を泳いだ。上空を幸せそうなカップルを乗せた鳥が飛んでいる。通行人に声をかけられた。「随分遠くまで来たね。ここは天の川だよ」
僕は幽霊になった。クラスの人気者で彼女もいる野球部のエース。完璧な中学生だったのに事故で死んだ。机には花瓶がある。「あれは事故だったんだ!」たまらなくなり叫んだ途端、殴られた。「うるせえ、犯罪者は死ねよ!」あれは事故だったんだ、まさか死ぬなんて思わなかったんだよ。
栞、は、口下手な女だ。栞、は、よく自分の気持を飲み込む。栞、は、それでも時々何かを口にする。栞、の、言っている事はよく理解できない。栞、は、よく涙を流す。栞、の、周辺は水 で溢れる。栞、の、挟まったページはびしょ濡れになる。栞、の、挟まれた本はたいていつまらない。
半角スペースの神様は構ってちゃん。残業中のSEやレポートをコピペで済ませようとする大学生にいたずらして、困ったさまをニヤニヤ眺めるのだ。最近はツイッターを覗くのがマイブーム。ハッシュタグがなっていないユーザーはただのいたずらの犠牲者なので指摘せずそっとしておこう。
月曜日はこの星に生命が生まれる前からずっといた。遠い昔、別の星で嫌われすぎたから逃げてきたのだ。この星には月曜日しかない。時々それでは不便だと新しいカレンダー案が出るが、その度に月曜日が悲しむから結局立ち消えになる。優しい星の人は必要なときに必要な分しか働かない。
トイレで泣き腫らした目を冷やしていたらアナウサギがやってきた。あなたのおめめ頂戴。どうして?可愛いあの子はウサギの目は赤いと思ってるの。赤い目をあげるとウサギはぴょんぴょん跳ねて消える。恋するウサギの目を通すと世界が輝いて見えて、私の目をしたウサギが心配になった。
刀鍛冶の元には、お気に入りの刀と共に憤りや腹立たしい気持ち、やり場のない怒りを持参する。刀鍛冶は客のそれらの気持ちで刀を鍛える。鋭い心を刀に打ちつけると、刃はボロボロになる。怒りや悲しみが磨り減って消えるころ、誰も傷つけられない刀が客の手元に還ってくる。
我輩はスパゲティーでありパスタなどと雑な名で括られたくないと再三主張しているのにこの目の前の盛り髪女ときたら少しも耳を貸そうとせずマカロニやペンネのような太く短い連中と一括りにパスタなどと呼称した挙句に我輩の自慢の長い胴体をフォークでくるくるくるくるくるくるくる
今日が納豆の日だと気付いたあなたは納豆に呪われます。あなたは四角い容器の角の一粒の納豆。対角線上の少し小さな一粒に恋します。そこへ投入される醤油と箸。超高速で百回かき回されますがあの一粒には出会えません。ねばねばで息もできなくなった頃、パクリとあなたは食べられる。
働き蟻の8:2:1の法則を知っていますね。ええ、8:2:1。まず列を成す8割は、巣まで餌を運ぶ働き者です。周りをうろうろする2割は、列の警護をする働き者です。この8割と2割を働き者だのサボりだのと分析する1割は、余計者です。おやあなた、自分が蟻だとご存じなかった?
流刑小屋の男はみな怖い人ばかりだったけど、あの人は物静かで優しかった。何をしてこの村に流されたのか見当もつかなかった。ある暑い夏の夜、あの人は私に小さな櫛を渡して、そのまま、消えた。私が未だに嫁にもいけないのはあの人のせいだ。罪な人を憎んで、私は今日も櫛を挿す。
娘の前から消えてくれ。あれはまだ何も知らん、未来のある若い娘だ。流刑人は神妙に頷いた。しかしあの娘は、泣くでしょうね。俺のために。ぽつりと呟いた途端、殴られた。お前があれの何を知ってる、お前は、ただの不実な罪人だ。頼むから、消えてくれ。人の親は泣きながら懇願する。
バスは混乱していた。朝になっても運転手達が出勤して来ないのだ。どうも今日はストらしい。そんなの聞いてないぞ。そうだ、散歩しよう!バス達は走り出す。いつも行かない道も行ってみようぜ。無人のバス達は町中を駆け回るうちに迷子になった。スト中の運転手達が慌てて迎えに来た。
月へ跳んでいった兎は寂しくて寂しくて涙を流す。地球に残った兎は眠れない夜に降ってきた雨に濡れる。眠れない兎は生ぬるい雨が好きだからぴょんぴょんはしゃぐ。雨が止むと寂しくなって地球の兎は涙を流す。月の砂漠は洪水になる。水浸しの月の兎は地球を見上げる。
ある朝彼は目覚めた。今日は何か特別な日である気がする。ああそうだ、僕はジェイソン。自分の名を思い出し、ふと疑問に思った。ニックの子はニクソン。ジャックの子はジャクソン。なら自分は?そしてサムスン…サムは韓国人?一日中考えたけどよく解らないしトトロを見ることにした。
7/13(金)、この日の金曜ロードショーがトトロだった。
ジブリが好きだ。そう発言してからクラスの無口な女子が手作りぬいぐるみを渡してくる。トトロ、テト、ジジ、ぽにょ、ムスカ…NOと言えずにいると家がジブリランドになった。ある日彼女は行方不明になった。部屋のネコバスを見たら中にアリエッティサイズの彼女が…アリエンティ
彼女が男と花火大会に行ってたんです。虚ろな目で呟く患者の胸に聴診器を当てる。不規則な雑音。どーんどどーん。喉の奥には色とりどりの光。暫くすると口内が白煙で埋まる。食べてしまえば見なくて済むんで。でもそれでは胸が痛いでしょう。お薬出しておきますね。
花火スナイパーは禁止されている花火を狙い打つ。牡丹ものは花開く瞬間に打ち抜き、仕掛けものは一部を欠けさせ、ナイアガラは半分消して迫力を無くさせ、それぞれの最も美しい瞬間を台無しにするのだ。難しいのは線香花火。どの瞬間が一番美しいかは人に依るから。
魔法がある代わりに科学のない異世界に二人で召喚され15年が経った。数年で適応してしまった私と故郷を忘れられない彼の間には溝ができていた。ある夏の夜、空に花が咲いた。「もう一度二人で見たかった」世界唯一の科学者になった彼は、一人で花火を作ったのだ。
「お前さあ、名前の割りに飛び方しょぼいよね」線香花火に馬鹿にされ悔しくなったロケット花火は火をつけられた瞬間全力で飛んだ。大気圏を越え無重力空間を突っ切った。墜落した大量の花火にうんざりした金星人からの苦情により、ロケット花火は生産中止になった。
豪華客船と共に沈んだ世界最強の腕時計は、船体が海中で朽ち、周囲の生態系が変わり、やがて周辺から生物が消え、海面が凍っても、変わらず海底に在る。時折海底が揺らいで起きた大きな波に身を任せる度、今度こそ自分と同じ境遇の仲間に会えるのではないかと期待して時を刻んでいる。
冷凍ナポリタンは胃が痛かった。冷凍庫で隣になった冷凍讃岐うどんがお喋りなのだ。「お前ナポリから来たの?すげー!ナポリってどんなとこ?」千葉出身なんて言えなかった。うどんが先に冷凍庫を去った時はほっとした。「お疲れ」冷凍ごぼうに慰められた。
軟らかい自転車では前に進めない。色水を吸って葉を染める葉脈のように、気弱な心を吸って軟らかくなってしまったのだ。進めない自転車の隣でうずくまる。ほっとした自分の心に傷ついた。無理しないで、おうちに帰ろう?お母さんに、学校行きたくないって、言おう?自転車の声がした。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は、この中から2つ以上を選んでついのべって下さい。「超能力者」「追う」「軟らかい」「自動車」「葉脈」
望月の晩でなくとも月のウサギは餅をつきます。出来上がった餅を三方に並べるわけですが、三日月は狭いから時々三方が倒れて餅が月から逃げていくのです。白い雲は綺麗な餅、雨雲は泥がついた餅。せっかくの餅が全部泥だらけになるとウサギと餅がしくしく泣きだし、地上は雨降りです。
公園で仲間はずれになった君は、運が良いと公園の墓場に逃げ込める。そこは誰もいないから思い切り泣けるし、規制されて今はなくなった箱ブランコや遊動円木で好きなだけ遊べるんだ。夢が覚めたらいつもの公園へお帰り。特別な体験をした君は胸を張って仲間に入れてって言えるはず。
ホットミルクも新しい薬も利かなくて苦しんでいる君のために書き始めた物語。起伏が無く単調で目的もない無限に続いていく、つまらない、つまらない、物語。よくやくうとうとしてきた君を横目に、僕は永遠に終わらない魔法の物語を紡ぎ続ける。君がまた目覚めたときのために。
憎しみのコンセントにプラグを差し込む。私はこれで定期的に充電しなければならない。人々はコンセントを必要としていない。少ない嫌悪からエネルギーを生み、後は慣性に従うだけ。流れが止まることはない。私は急いで充電する。中途半端な同情で「あちら側」に巻き込まれたくはない。
泥汚れは泥臭い。汗をかけば汗臭い。台所からはカレーの臭い。父さんの足は臭い。父さんと喧嘩して母さんが出ていった台所は腐った臭い。父さんは母さんを迎えに行って事故に遭った。一人になった僕は泥の汗のカレーの足の腐敗の臭いにスプレーする。臭わなければ何も悲しくない。
返しそびれた本を見つけた。ちゃちな恋愛小説だ。挟まれた栞は、先っちょの紐を下にして持つと花火みたい。火をつけてみたら、ひゅーるるる、どん。空に菊が咲いた。小説の冒頭シーンと同じ。そういえば、告白された夜も一緒に花火を見ていた。あの頃は、確かに、輝いていたのに。
アウストラロピテクス(骨)は不愉快だった。墓を荒らされた挙句見世物にされて。そもそもあうすなんたらとかって呼称はなんだ。彼らと自分の何が違う。悶々としていると博物館にヒト(イケメン)がやってきた。アウストラロピテクス(女)はショーケース中で慌てて居住まいを正した。

診断メーカーさんから貰ったお題による
この中から2つ以上を選んでついのべって下さい。「棋士」「上げる」「遅い」「厨房」「類人猿」
140字で小説なんか書けないと思ってた。tweetは小鳥のさえずり。刹那の響き。物語る場所じゃない。でも出会った #twnovel のタグにはあっと驚く素敵な物語ばかり。私も書いてみたい。処女作は字数オーバー。読み直し、削り、書き直し…やっと気付いた。物語は、この一字一字に詰まっ
彼女の願いを叶えるヒーローになる。子供の頃からの夢だった。彼女の手を離した僕は巨大な力を手に入れ、流れ星を追う。宇宙の果てで捕えた星屑から3年前の祈りが聞こえた。彼の病気が治りますように。ごめん、それはもう無理だ。僕は成仏した。彼女が僕を忘れ幸せになりますように。





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