ついのべ まとめ







ついのべまとめ       



言葉の池に、自分の心をくくりつけた釣り針を放った。日が沈む頃、苦しい、という言葉が釣れた。失せかけた茜色にかざすと、濁ったり、輝いたりしていた。誰にも見せたくないから、夜が来るまでぎゅっと握って、そこにうずくまる。言葉にしたってどうせ、誰もわかってくれない。
遠くにいる貴方を思う私の気持ちと、エーテルと水を分液漏斗に放り込む。しゃかしゃか。しゃかしゃか。全てエーテル層に溶けた私の心は不純物で脂ぎっていたようだ。ところで水層には何があったのだろう。あなたは下層だけを集めてどこかへ立ち去った。私は可燃廃液として捨てられる。
愛でた覚えも捨てた覚えもない人形が、繰り返し現れる。戻って来たわよ、と親しげに微笑む。はじめに、人違いだと拒絶すべきだったのだ。何度も何度も、ただいま、と微笑んでいる。つられてお帰りと言いそうになるのを堪える。見えないフリをしているのにまた戻ってくる。
海の上を飛ぶのは気持ち良いよ、とカモメが言うから、僕は、僕だけの海原を見つけた。風が吹くとさらさらと音を立てて輝く、黄金の海!秋空を翼で切り、空から見下ろす海は確かに気持ちいい。今日は人間達も船を出したり泳いだりしてる。
・・・
翌朝トンビが来ると、稲は全て刈られていた。
あったかくして寝なさいとお母さんが言うから、ホットプレートに横になった。融けた。僕は牛脂だったんだ…。
はがねのかたまりが鳥になる過去と、文明の興りすら知りえなかった未来の狭間で、月の砂漠に心をうずめる。
ガラクタはガラクタを呼ぶ。最初は道端で拾ったサビだらけのネジだった。それから粗大ゴミの日に取り残された旧型テレビ。流行が終わったブランド靴。昔のガラケー。謎の木切れ。全部組み立てて、最後に彼女に拒まれた僕の恋心を埋め込むと、意思を持ったガラクタロボットが動き出す。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧さんの本日のお題は「がらくた」、ゆるい作品を創作しましょう。補助要素は「拒否」です。
兎は、悲しかった。最近の若いもんときたら、団子を奉げることも忘れ、安っぽい洋菓子に行列を作っている。てか、なんだあれは、団子より美味そうじゃないか?食わせろ!月の兎はゴゴゴゴゴッと息を吸い込む。発達した低気圧が…太平洋沖に白いドーナツを作った!台風17号、接近中!
芋ほり遠足の日、芋の神に出会った。理由あって秋に入園した私は、「植えてない奴は掘るなよ!」と仲間はずれにされたのだ。畑の隅で泣いていた私を慰めてくれた優しい芋の神。その十年後、また神は現れた。「おい娘、何故泣いている」…あんたを食ったら彼氏の前で屁こいたんだよっ!
仕事が覚えられない。ミスばかり。同期の奴らはどんどん出世していく。悔しい。恥ずかしい。悲しい。豆腐の角に頭をぶつけて死のうと思った。ぐしゃあ。冷奴にぶつかった頭から、お豆腐メンタルが吸い込まれていく…!やがて全ての脳を吸い込んだ豆腐は、抜け殻となった男に食われた。
本を読んでいたら、見たことのない虫が這っていた。人差し指でとんとん、と軽く触れる。検索の結果、紙魚という虫だとわかった。昔の本にはよく挟まっていて、紙を食べてたらしい。気持ち悪い!やっぱり紙の本なんて資源の無駄だし虫がつくなんて不衛生だよね。僕は本の電源を切った。
あの子がもうずっと一人で泣いているから、私も一緒に雨を降らせた。最初は大降り、泣き声が誰にも聞かれないように。次は小雨、静かに悲しい気持ちと向き合えるように。最後は青空、ちゃんと泣き止むきっかけができるように。眩しいくらい大きな虹ができたのは、ただの偶然。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は『運天士』です。髪は勿忘草色。瞳は葡萄色。思慮深い性格で、呪符を使用します。仲がいいのは『音集め屋』、悪いのは『からくり職人』。追加要素は『幸運』です。
羊水は人肌の温度だ。生まれると、ぬるま湯に浸かる。歳をとるにつれ熱い温泉のよさを知る。大人になると、温泉よりさらに少し高い温度の風呂、通称熱湯風呂に飛び込み、PR時間を稼ぐ。繰り返していれば熱さに皮膚が麻痺していき、最終的に、本物の熱湯で全身大やけどをして、死ぬ。
シラユキヒメダカのお気に入りの森は、川の中。そっと覗いてみてごらん。変わりもののシラユキヒメダカが、7匹のヤゴと仲良くしているよ。でも大人になったら、森を出なきゃいけないね。お嫁にいくシラユキヒメダカを、7匹の赤とんぼたちが、そっと覗いて見ているよ。
夕日を美しいと感じるのは、そう感じるほど心が美しいからなのだ――と、思ったか?! 残念だったな、あの夕日は本当に美しいのだ!
傲慢なあなたのはしっこを齧るのはあなたを理解できないからで、でも口にしたあなたの一部は異化され刹那のエネルギーとなり放出されるだけなのだった。
アメフリムシは、青いお空をうにょにょ這って、くもをぱくぱくいっぱい食べて、おなかが痛くなると、めそめそしくしく泣き出すから、地上は雨降りになって、涙で濡れると、大人はなんだか悲しくなったり、子供はなんだか楽しくなったり、する。
あなたが買ってきた小説の、72ページ目を切り取ってむしゃむしゃ食べた。読み始めたあなたが足りない72ページ目の展開を想像すると、私の歯の裏に残っていた「!」の文字から、あなたの想像の断片が染み出して、色んな物語が口の中に拡がる
寝不足で弱っていたところに、敵は攻めてきた。卑怯な…!普段ならなんてことない雑魚だが、弱っている今の我々では押される一方だ。仲間達が次々と倒れていく。かくなる上は…すまん、友よ許せ!我々は同胞の亡骸で砦を作る。

「うわー、寝不足続いたらものもらいできちゃったよー」
君が、
僕が君のために手に入れた世界一美しいという薔薇に目もくれずそれに惹かれて飛んできた蜜蜂が窓枠の小さな蜘蛛の巣に引っかかってもがいているのを涙ぐんで見つめているような、
薄情な女だってどうして誰も教えてくれなかったんだ。
人魚ロボはもうずっと泳いでいる。船が通れば歌をうたい、嵐が起これば人を沈める。一定の確率で若い男性を救い出す。情緒回路が恋心に切り替わる。特別な歌を紡ぐ。地上に戻った人は夢の中の出来事など忘れるのに、ロボのメモリーは消去されない。人魚ロボはもうずっと泳いでいる。
レンズの向こうに、一面の羊の群れ。視界を遮られ、君を探すこともできない。真っ白な壁の向こうで、僕を思い、君はきっと泣きじゃくって眠れない。君の代わりに僕が羊を数えようか。一匹、二匹、三匹…。故郷の空を覆う羊雲の数は途方もなくて、宇宙ステーションの僕は気が遠くなる。
飴屋のおじさんは色んな物から飴玉を作る。イチゴの飴はイチゴ味、先生がくれた花まるの飴は花の味、虹の飴は七色の味がする。あの日公園で泣いてた僕の涙の飴は、大事に大事にタイムカプセルに入れた。二十歳になった頃、公園には飴玉の木が育っていて、とびきり甘い飴が実っている。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧さんの本日のお題は「飴玉」、ファンタジックな作品を創作しましょう。補助要素は「想い出の場所」です。
空を飛ぶ大きなお魚さんに憧れて、うろこ雲のあちこちの隙間にこっそり入り込んでみたのに、お魚さんはちっとも気付いてくれないから、私は、絶対くじらになってやるんだって決めて、うろこ雲から去ったんだ。
自信雲は、自信家である。しばしば移ろいやすい秋の空に出現し、圧倒的な存在感と美しさで人々を魅了する。自信雲はいわし雲という二つ名を持っていることでも有名である。自分に自信があるので「弱」という漢字をあえて名前に入れてみせているのだ。
月の姫と離れた帝は、時折酒をなみなみと杯に注ぐ。満月が映っている。杯を手にすると、月が揺れ、乱れる。まるで掴みどころのなかったあの女のよう。「月を飲んでいるのだ」と言うと、幼い妻が微笑んで「どんなお味がするのですか」と問う。喉が焼け、体が燃える。そうして妻を抱く。
私の好きな人は多分、今流行りのメンタリストというやつで、不思議なことを起こす。例えばこれはただの水だったのに、彼と一緒に飲むとほんのり甘くて、胸が焼けて、体が熱くなる。酒になってしまったのだ。「もう一軒、行く?」無防備に頷いてしまったのは、水に酔ったせいだと思う。
月が昇る頃、火をつけた赤ワインから、水と二酸化炭素を作る。木目の綺麗なカウンターに突っ伏し甘い匂いを嗅いでると、金が輝くあなたの指が目に入る。土くれみたいに汚れた私。日が昇る頃には全て吹っ切れていればいいのに。
夜になったら帰ってくるよと彼が言うから、私は太陽を高く掲げた。彼を待ってるときが一番楽しいから、夜は来なくていい。
狙いを定め、ポイを潜らせる。夜は逃げていく。やっとすくったひとつを金魚鉢に入れる。夜で満たされたそこにつゆ草と星の虫を放る。じっと見ていると夜目が利いてきて、黒猫の尻尾の揺れているのが見える。更けた夜は金魚の餌になり、朝がくる。
よく晴れた日、見知らぬ男の子と、ばあちゃんが干した柿を見ていた。渋柿を食べたんだ、と彼は言った。それは残念だったね。甘いの食べたいなあ。じゃあ一緒に干し柿食べようよ。それから毎年、彼は干し柿を見に来て、食べずに姿を消す。今年も柿を干す私を変わらぬ姿の彼が見ている。
青空にひつじの群れ。牧羊犬の代わりに飛行機が追いかける。空が赤くなる頃は飛行機雲だけが残っている。かけっこのテープに見立てて満月がそこに走ってくる頃には真夜中。ゴールした月を讃える星たちがキラキラしている。
あまりに無感動な彼の心の琴線はどこにあるのかと、色々探ってみたけどなかなか見つからなかった。心はきっと、胸にある。メスを握り、肋骨を削り、パカっと心臓を開く。あ、あった、このプルキンエ線維なんじゃね?触れてみると、彼の心の電位活動グラフが乱れる。そして、止まった。
囚われの姫君は、高い塔に一人でいて、森を見下ろしながら故郷を思い出している。誰もいない山は音が響くからずっと声も出せない。土砂降りの日は、大きな雨音に紛れて失われた母国語の歌をうたう事ができる。それは雨粒に溶け込んで海に流れていく。人魚はそうやって歌を覚えている。
「しもやけのおくすりちょうだい」霜の降りる日、少女はやって来た。聞けば辻に並ぶ地蔵たちに塗ってやりたいのだという。それならばと霜よけスプレーを渡すと喜んで走っていった。翌日もまたかけようとしていたので、1度すれば一冬持つのだと教えると、なんだか少し寂しそうだった。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は天狗(てんぐ)で地蔵の辻に住んでいる薬屋です。鈴を大事にしています。人形の付喪神(つくもがみ)とは仲が悪いようです。
気付けば転寝してたらしい。いつの間にかゾンビの大群が迫っていた。横歩きに加速するカニ達。腐りかけの足が岩場で不気味な音を響かせる。俺はカニスプーンを取り出し狙いを定め投げつけた。命中したゾンビからカニミソが噴出す。腐臭がする。安全な場所を求め無人島の奥へ駆け出す。
子供の頃、妹が蟹味噌を美味いと言ったのを思い出し、蟹味噌の缶詰を土産に買って帰った。「兄ちゃんてほんとセンスない。蟹味噌は蟹の中に少しだけあるのが良いのに」人の好意になんてことを。と思えば、食卓に出された焼酎。照れながら「飲もう」。そうか、俺達大人になったんだな。
やっと座れた電車の座席。隣の女が調子っぱずれの歌をうたっている。音もリズムも歌詞もめっちゃくちゃ。小声ではあるがこっちまで聞こえるし、不愉快だ。横目で見ると、イヤホンで何か聞いてる。自分の声が聞こえていないのか?周りの乗客も顔を顰めている。本当に迷惑なやつだ。
子会社から来た新人は少し気難しく、中々打ち解けられない。十月のある日「あの白い虫の大群は何ですか」と聞かれた。「雪虫、本土にはいないんすか」と言うと神妙な顔。そっか。新しい場所は不安だよな。「北海道の魚、食べ行きません?美味っすよ」俺は初めて会社の人を飯に誘った。
秋の終わりの少し暖かい日、エゾシマリスは木陰にごろんと横になる。尻尾を振りながら白いおなかを出して、木漏れ日の模様を吸い込むのだ。土に潜る間、エゾシマリスはお陽さまのぬくもりを繰り返し夢に見ている。小春日和を感じているから、エゾシマリスは冬を知らないわけじゃない。
アポロンはアルテミスに言った。「お前はその弓で何でも射る事が出来るというが、ではあれはどうかな?」「その手にはかかりませんよ兄上、あれはオリオン座じゃないですか」「いや、あの流れ星が流れぬように止めて欲しいんだ」「何故です?」「…月曜日が来ないように祈るんだ」
鳥になる夢を見た。木の枝を蹴り、翼をはためかせ、秋の風を切る。羽根の一枚一枚で空を感じる。美しい景色。だが空は寒かった。トイレしたい…。仲間は言った。「小便?人間じゃあるまいしそんなんしねーよ」仕方なく僕は空で糞をした。朝、愛車のフロントガラスに鳥の糞がついてた。
奇数と奇数を足せば必ず偶数になるように、割り切れない気持ちと割り切れない気持ちを合体させてみたら少しは収まりがよくなった気がしたんですが、まだ2で割ってみていないので本当のところ割り切れるのかどうかまだわかりません。
貧しい花売りだった頃、街角のお洒落なカフェで物憂げに頬杖をつく美しい女性によく見惚れていた。1度、綺麗なお花ね、と言って一本買ってくれた。その後富豪に買われ美しく着飾るようになった私は、街角でかつての私を見つける。目の肥えた私は、安い花も、私も、美しいと思えない。
気まぐれに手折られ捨てられた野の花や、無残に踏み潰された団子虫や、捨てられた老犬、売られていく子牛、痣を隠す子供、死んだ目の背広、孤独な迷子を見たら、ただ黙って空を見上げなさい。おおきなおおきなくじらがやってきて、それらを全部飲み込んで、代わりに泣いてくれるから。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は『ほのぼのとしたくじらを使って30分で即興してね。特別ルールは死体必須と動物必須』です。
隣の席の彼は少し変だった。やたらに陽気でマイペースな子で、久しぶりに登校した私に、教科書忘れたから見せてなんて言いだす。ガチガチに緊張してる私の教科書にずっと落書きをしていた。それから私はまた学校に行けなくなったけど、時折教科書を開いて彼のパラパラ漫画を見ている。
「トリック・オア・トリート!」おどけてそう言う彼に、まとめた荷物を押し付ける。「お菓子なんてない。二度と来ないで」「えっなんで?」「遠恋の彼女とまだ続いてるでしょ」「それは、」言い訳する彼を玄関から追い出す。私に声をかけたのも、最初から悪戯みたいなものだったのだ。
プレジデント・キャンディーは、とても甘いひとだった。部下の失敗を頭ごなしに叱ることなく、デキの悪い新人も根気強く見守る。甘すぎてたまに舐められる。良い人を演じていると熱くなって、融けていつもの姿を保てなくなる事がある。そんな時は冷蔵庫に飛び込み頭を冷やして固まる。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は『おいしい社長を使って30分で即興してね。特別ルールは舞台が屋内と家電必須』です。
無邪気な子供だった頃、近所の川でイタズラに魚を捕って食べもしないのに死なせてしまったことがある。ずっと忘れていたそれを突然思い出したのは、ふと見た自分の足の裏にあの魚の濁った目を見つけたからだ。じっとこちらを見つめている…!俺はウオノメコロリを貼ってそれを封じた。
ゼロコブラクダは野生のラクダだ。遠い昔、商売に飽きたキャラバンの隊長が自由にしてくれたのだ。嬉しくてあちこち走っていたら夜空の砂漠に辿り着いた。星の砂はキラキラ綺麗だけど、運び屋だった頃が懐かしい。だからゼロコブラクダは、流れ星と一緒に走って願いごとを担いでいる。
鍋の中で煮立っている。対流する熱湯にかき乱され、血肉が変性し、骨の髄から何かが流れ出す。私は死んでしまう・・・どうしてこんなことに・・・。鍋の中を覗き込ん出来た少女の目はギラついていた。「コラーゲン・・・」そうか、私は嫉妬によって殺され食われるらしい。私が美しすぎて・・・
ゼロコブラクダの背中には、コブがゼロ個ある。遠い昔、コブナシと哂われていたとき、物知りなキャラバンの隊長が、それはゼロという数字なのだと教えてくれたのだ。ゼロコブラクダは算数が嫌いだけど、ゼロという数字は知っているし、とても愛しく思っている。
燃え盛る炎にも鋭く散る火花にもなれなかった。私の恋心はちっぽけな蝋燭の灯だった。誰にも気付かれないと思っていたのにあの人はあっさり見抜いて、綺麗だと言ってくれたの。どこかへ消えてしまった彼を、私はもう何十年何百年と、風除けの影で待っているの。
「仮装ではない!脅しではないぞ!」玄関先に突如現れたミニモスラはそう言い放った。聞けば彼はある女子が俺に渡し損ね長年日陰に放置した手作りチョコから孵化した蛾の妖怪だという。「早く彼女の思いに応えるんだ!あとギブミーチョコレート」「ハロウィン関係ねーじゃん、帰れよ」
黒猫がこっちに来る。不吉だ。追い返さないと…って、あれ?よく見たらお兄ちゃんの彼女だ。「トリック・オア・トリート」そう言って空のバケツを差し出す。何か入れろってこと?僕はお気に入りのボールを持ってきてあげた。「あら、ありがとう、ポチ君」
こんなに寒い夜は、靴下の夢を見てしまう。靴を脱いだ時に見えた、彼のごつごつしたつま先。小人になって夜通し破れた靴下を繕ってあげる夢。こんなに寒い早朝は、自分が見た夢に泣きたくなる。こんなに彼を思っている私より、彼は、彼に穴あきの靴下を履かせるような女を選んだのだ。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧さんの本日のお題は「靴下」、泣きたくなる作品を創作しましょう。補助要素は「早朝」、季節はとにかく冬です冬。
雲の上に、神さまのかじゅえんがあるのを知っている?例えば昨日、君が友達と喧嘩して流した涙は空まで舞っていって、小さな桃の木の根っこに吸われてったんだ。バカ、なんて言ったのを後悔してるかな?ならきっと、君の涙は少し塩辛くて、その分、桃の実は少し甘くなっているよ。
豚の角煮の木は、心を込めて育てると豚の角煮の実をつける。じっくりとことこと煮込んだ調味料を根っこに与え、適切なタイミングで収穫する。いい匂いがしてきたからと焦って採ってしまうとまだ味が染みていなかったり、硬かったりする。苗木を植える前に圧力鍋を使うとより早く育つ。
泥棒猫は、我がもの顔で彼の台所に立っている。私には食べられない、熱いおかゆを作り、これ見よがしにするするりんごの皮を剥く。風邪をひいた彼をかいがいしく看病して、私から彼の心を奪おうとしている。私は彼の布団に爪を立てる。「こら、ミケ、布団に穴が空くからやめなさい」
去り行く貴方の背中に向かって言った「ありがとう」の言葉は少し掠れて、唇に乗り切らなかった響きが舌の上でいつまでもざらついている。
ゼロコブラクダは野生のラクダ。遠い昔、商売に飽きたキャラバンの隊長が自由にしてくれたのだ。嬉しくてあちこち走っていたら王様の庭に辿り着いた。蹄が痛いから踏まないでと芝生に懇願される。走れないのは残念だけど、ラクダは久々にゆっくり休んで砂漠には無い緑の景色を眺めた。
結局渡されなかった恋文は、紙飛行機になった。びゅんと風を切り、遠くへ飛んでいく。川へ落ちた言葉は秋の冷たい水に溶けてゆき、ゆっくり流れながら雪と混じっていく。春が来て、ほんの少し暖かくなった頃、海に流れ出た誰かの恋の残骸を食べた魚は、浜辺に立つ人影に焦がれている。
くまさんのぬいぐるみは眠っている。遠い昔、小さな女の子が絵本を読んでくれた。自分と同じ形をしたくまさんが、蜂蜜を求めて冒険する。うちのくまさんはどうして歩けないの、と女の子が聞いた。ぬいぐるみだものとお母さんが答えた。暗い押入れの中、くまさんは蜂蜜を探す夢を見る。
国中の男を誑かし惑わせた稀代の悪女は処刑される。悪魔の笛に操られ命尽きるまで踊るのだ。鉄の靴が灼熱の砂を蹴り上げ、赤い裳が炎のように翻る。笛吹きは気付いていた。罪を食らう悪魔の笛は何も吸っていない。女は自らの意思で踊っている。見物人は我を忘れ女の舞に見惚れている。
「最初は、あなたの顔が好みで惚れました。恋でした。あと高収入だったので、多少打算もありました」「うむ」「それから20年経った今日。嵐なのにあなたの帰りが遅かったから、とても心配になりました。20年前の二つの気持ちと同じ重みでした」「質量保存の法則だね」
真実が明らかになった時、ホラ吹きは得物を海に放った。珊瑚の輝く故郷の海へ、それは還っていく。ホラ貝は思い出す。主人の吹いていた音は、人を泣かせたり怒らせたりしたが、時には笑わせたり幸せにしたりもした。その音色を再現しようと、海底で彼は体を震わせた。聞いてくれる人はいない。
「お隣のお兄さんの結婚式だから。明日晴れますように」そう呟く女の子の顔が曇って見えたから。てるてる坊主は彼女を笑わせたくておどけてひっくり返って見せた。「だめ!」慌てて彼を直す彼女の顔はもう雨降りで。てるてる坊主は思う。空模様より、人の心の模様を変える方が難しい。
青い目のお人形さんは、本当は見たくなかった。喧嘩をする若い夫婦。一人で泣いている子供。悲しいニュース。お人形さんはそっと横になる。目を閉じて静かに眠りたかった。なのに、目を閉じると、あらあら倒れている、と、体を起こされた。壁に寄りかかり、青い目をずっと開いている。
太陽が地球を喰らい尽くす、と連邦政府が発表した。迫り来る灼熱は4Dテレビで全世界に生中継され、穏やかな地球人は愛しい人とそれを見ながら静かに終焉を迎える。受け入れられない僕だけが、ジープを発進させる。僕は、この目で見るもの以外信じない。
ため息が霧となって森に立ち込める。憂いが重ければ重いほど霧は濃くなり、深部への道は閉ざされる。ただ白く染まっていくそれを綺麗だと思うなら、そこに留まっていればいい。恋とはそういうものでしょう。
空と大地が震え始めた。僕は母さんがくれた非常用リュックを持ちシェルターに逃げ込む。辛くなったら開けなさいと言われた缶詰め。食料が切れて3日、僕はそれを取り出した。母の愛情とラベルに書いてある。開けた。母さんの懐かしい匂いと温もりが溢れ出す。だが腹は膨れなかった。
天国の学校では、たいていの学生が落第する。煩悩の捨てかた、未練の断ち切りかた、夢と現実の折り合いのつけかた、心から人を愛する意味、永遠という時間が流れる世界で、たいていの学生は突然我慢ができなくなって教室を飛び出す。そして地上へ墜ちてゆき、また新しい人生を始める。
幻泉徴収票には、今年一年泉に吸い取られた幻が列挙されている。可愛いあの子の胸の内、好感度タレントの私生活、第一志望だった大手企業の内情、行列のできるラーメン屋の味など大小様々な幻が並べられる。現実とのギャップにより課税額が計算され、現実保険の加入による控除もある。
ゼロコブラクダは野生のラクダだ。遠い昔、商売に飽きたキャラバンの隊長が自由にしてくれたのだ。独りで荒野を散歩していたら、向こうからゴツイけどくねくねした女性が歩いてきた。…いや?男性にも見える…?「やだ〜 !まぼろし〜!」…幻だったらしい。
かわいそうな泉はぬるま湯だ。浸かっているのはとても心地よい。かわいそう、と通りすがりの人に囁かれることでずっと適温が保たれる。かわいそう、かわいそう、かわいそう。ずっとここに浸っていたいのね。かわいそう。
遠い処へ行きたくなったと父は言った。反作用装置に乗り込み、これまでのしがらみを全て投げ捨て、重力に逆らい加速してゆく。成層圏に入ると熱を浴びた塊は削られ、質量ゼロになった魂だけが慣性で、あるいは惰性で、アルデバランを目指し、今は居間のソファーでいびきをかいている。
吸血鬼はトマトジュース工場で夜勤専門のバイトをしている。初めてできた人間の彼女へのクリスマスプレゼントを買うためだ。廃棄するトマトジュースを持ち帰れるため、食費の節約にもなる。しかし、キリストの誕生日を祝うなど許さん!今すぐ別れろ!と、保守派吸血鬼の父と口論になった。
遠い昔、寂しいパイロットがやってきて、死んだ恋人の青い眼球をひとつ残していった。赤い大地だったそこにやがて海が出来、青い眼を包く。そしてそこから命と営みが生まれる。朝も昼も夜も、青い眼の沈む海はずっと青い。寂しいパイロットの恋人の眼は、ずっと星の行く末を見ている。
私があなたにしている恋は、あのテーブルの上にいるりんごが赤いのと同じなのです。白色光の中から気まぐれに弾き飛ばされる波長700nm付近の波。源がなければ反射させるものもなく、網膜に届かなければ赤いと思われることもない。その赤は、一度とて同じ色ではありえないのです。
ひらがなの中の輪っかを覗く。す の輪っかの向こうには、続いていく道の途中が見える。ぬ の輪っかの向こうには、長い道の終着点が見える。な の輪っかの向こうは、それらより少し広い。の はもっと広い。ゑ の輪っかの向こうには、古の時代が見える。
私が困難な時期を乗り越えて随分と分別がつくようになった頃、母は繰り返しこう言うようになった。あんたを最初から男と思って育てていれば幾ばくかは楽であったのにねと。また同時にこうも言った。あんたが女だったのは不幸中の幸いだったよ。男だったらもっと大変だったろうから。
ゼロコブラクダは野生のラクダ。遠い昔、商売に飽きたキャラバンの隊長が自由にしてくれたのだ。嬉しくてあちこち走っていたら、干上がった海に辿り着いた。塩だらけの景色を見ていたら、内陸での旅を思い出す。あの頃のように塩を背負ってみたかったけど、独りじゃ何も担げなかった。
千度目の満月を見る夜、弟は私を殺しに来る。弟。否、かつて弟だった者。変わらぬ姿の私に出会い宿命を思い出す、輪廻の中の私の片割れ。この世がまだ土くれだった頃、許されぬ欲望のため神の果実を食べた私の愚かな男。お前は不死の私を殺せず、私はお前の夢を見てまた千度月を見る。
お前の頭は空っぽだと言われた。確かに頭蓋骨には何も入ってなかった。空っぽなのに重くて、空っぽなのに死んでなかった。憐れに思ってくれた人がマイクロウェーブを当ててくれた。骨細胞が震えだし、その一瞬だけ何かを思い出す。死の直前に叫んだ一言が、空っぽの頭蓋骨で鳴り響く。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は『不滅の骸骨を使って30分で即興してね。特別ルールは家電必須と叫び声必須』です。
こがねむしは金持ちじゃなかった。家に病気の妻と腹を空かせた子供が待ってる。だが先日のリストラで戦力が減り業務は多忙を極め、毎日終電帰りなのに給料は満額出ない、今年はボーナスなしだと言われた。家族心中を考え始めたこがねむしにキリギリスは言った。アリん家襲撃しねぇ?
初デートの日は初雪だった。寒いね、と言ったら寒いね、と返してくれた。手を繋いで、温いね、と言ったら温いね、と笑ってくれた。別れ際、好き、と言ったら俺も、と囁いてくれた。夢の中、寂しいと叫んだら、大丈夫、と声がした。夫になるはずだった人は、寒い日に帰らぬ人となった。
美しい娘はぬかるみの前で立ち止まった。このままこの水溜りに入ったら、お気に入りのワンピースが汚れてしまう…。困り果てた娘に、腕に抱かれていた喋るアンパンが言った。「僕の顔をお踏み…」「そんな、旦那様に頂いた手土産にそんなマネできないわ!」「はやく!踏んでください!」
どうせ僕はもうすぐ死ぬ。だからここから高く高く飛び上がる。僕は宇宙ゴミになり、空気のない世界を飛んでいく。ボイジャーを追い越してどこかの銀河に入り込み、やがて見つけた青い惑星にひきつけられ、成層圏で焼け死ぬのを、君に似た生命体が見つけてくれるなら、それも悪くない。
16の冬。初めて訪れた優等生の彼の部屋。机にあったキャメル・マイルドは彼の物だったのだろうか。結局何も聞けないまま、一度だけの関係は終わった。ハタチになり、雪の積もるベランダで一人初めてそれをふかしながら、彼の吸う姿を想像してみる。煙が目に染みた。
初雪のせいで目が潰れた。朝日を受けた新雪の強い輝きに目が眩んで、それからずっと何も見えなくなった。あどけない君の笑う声が遠くから聞こえる。ああ、あれは雪じゃなくて、君の白い肌だったのだろうか。暗闇の中で君の影だけが明滅している。初恋のせいで目が潰れた。
エウロパに初めて降りた日、父さんは僕の手から地図を奪い破り捨てた。地球にはもう戻れない、全部忘れなさいって。開拓は進み、僕たちの新しい星の情報が蓄積されていく。地球に似ていて似ていない星。僕は父さんに見つからぬよう、こっそり白い紙を見つめては故郷の地図を思い描く。
年老いた山羊はかつて竜だったらしい。空を縦横無尽に駆け巡り、神と崇められた、と。ではなぜ今は山羊なんです?と聞くと、最近は粗悪な供物ばかりで力が出ないと言う。母さんが捧げているのはただの白い紙に見える。でも山羊竜さまはそれを咀嚼しながら機嫌よく大きな角を震わせた。
真夜中の公園、積もった雪に、連絡がつかなくなった彼の名前をこっそり書いた。明日融けて消えてたら、彼のことは忘れよう。朝が来て窓を開けたら、新雪が一面を覆って真っ白になっていた。そうだ、忘れられなくてもいい。その上から、また新しく始めればいいんだ。
竜の化石の中に住む変わり者の彼は、時折何も書いてない便箋を送ってくる。一体どういうつもり?今日の手紙には「これで最後」のメモがついていた。溜まった7枚を魔法の針で縫い合わせると、文字が浮かんでくる。「ば、ばっかじゃないのっ!」思わず赤面して叫んだ言葉は宙に舞った。

診断メーカーさんから貰ったお題による
碧は 星屑砂漠に住む水色の髪と青色の瞳をした短気なWitch。奪い取った針を持ち、調香が得意。龍の骨に好きな人がいます。
恋は下心。受け皿みたいに構えているこの平べったい心を見てごらん。屋根の隙間から漏れてくる雨粒を拾い集めるかのように、コイシイ気持ちの一滴一滴がどこかから染み出すのをじっと待っている。
裸の男は羊を抱いて眠る。美しい肉体に自惚れていた彼は神に衣服を奪われた。寒さで惨めに震え上がる男を孤独な羊が憐れに思った日からずっと、ふたりは体を寄せ合っている。ぬくい毛を優しくなでる男の指先はなまめかしく、その度に羊は自分たちを引き合わせた神を密かに憎んでいる。
疲れた。もう何も考えたくない。思い出したくない……。私は脳にしわ取り用の美容液をふりかける。ぐにゅぐにゅぐにゅ。脳みその皺がどんどんどんどん伸びていく。膨らんだ脳が頭蓋骨を破壊し部屋をふっ飛ばし町を押しつぶし、地球は私の脳内の闇に抱かれし暗黒世界に呑まれていった
手品師の気まぐれで赤い帽子に入れられていた鳩は真っ赤に染まっていた。白くなきゃ平和の使いにもなれないから、どこへでも飛んでいけるのさ。トナカイは赤色を目印にソリを引きずっていく。一生分のプレゼントを運び終えたら帽子の先っちょの白いぽんぽんを鼻と交換してもらうんだ。
原生海の奥深く、半透明の触手を繋ぎ、エウロパの先住民たちは遠い第三惑星に訪れる大災害を遠視している。燃え上がる大地、震える空、荒れ狂う海。果てなく増大するエネルギーに共鳴しながら、静寂を愛する彼らは数刻後にエウロパに到着する新たな有機体の処遇について議論を交わす。
呪われの巫女よ、お前は眠ってはならない。その床で意識を手放したが最後、お前は竜神の子を成し、光を失った眼が息子の鱗の狭間に溺れ、永遠の刻を旅した後、老いも滅びも知らぬ肉体の虚無を知って、永遠の眠りにつくだろう。欲深き巫女よ、瞼を開いたまま愚かな夢を見続けるがいい。





Copyright(C)2012 MIDORI All rights reserved. designed by flower&clover
inserted by FC2 system